登檣礼

登檣礼をすべての人に捧ぐ・・・

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誰かのための108の断片 039

マルセイユの別邸に、一人の青年が訪ねてきた。
地中海が温暖であると言えど、季節は冬、しかもここは仮にも離宮の別邸である。なのに彼は、ジレの上に薄手のジュストコールを羽織っただけという軽装で、ここに現れた。そして、当たり前のように門番と言葉を交わし、当たり前のように中へ入っていく。彼は歩くのがとても速く、ジュストコールがなびかせる姿は、漆黒の怪鳥を思わせた。
その姿を上層階のティールームの窓辺で、じっと見つめる女性がいた。


ティールームに招かれた青年は、先ほど窓辺にいた女性の前へと歩み寄った。
「相変わらずの黒さですね。まるでカラスのようです。」
開口一番、彼女は彼の漆黒の装束について言及した。彼はいつも黒い装束を身にまとっている。今日も例外ではなかった。
「軽装でもお許しいただけると思ってましたから。それとも、ジャラジャラと勲章をつけた軍服で参上したほうがよかったですか。」
「私用でも軍服を着るほど、あなたは生粋の軍人ではないでしょう。」
「まあ確かに。」
二人は半年ぶりの再会である。しかしそれを祝す言葉を交わすわけでもなく、淡々とやりとりを続けながら、二人はテーブルへと向かった。

ティールームには彼らの他には誰も見えなかった。隣接する厨房からはカタカタと音がするので、数名はそこにいるだろうと思われた。
彼女はティーポットを手に取ると、お互いのカップに紅茶を注ぎはじめた。
「給仕はいらっしゃらないので?」
彼は訊ねた。
「私じゃご不満ですか。」
彼女は手を止めずに答えた。
「不満なことがあるもんですか。ただあなたとテーブルについて給仕がいないってのが、なんとも不自然なもので。」
「私がお断りしたんです。今日は私用だからって。それに、そばにいられたんじゃ、なにかと嫌でしょう?」
「嫌ということはありませんよ。」
「あら、ではいつもの恥ずかしいお言葉を聞かれても、なんともないとおっしゃる。」
彼は注がれた紅茶の香りを味わいながら答えた。
「聞かれようと聞かれまいと、私は言うときは言います。というか、もしやそれを期待しておられるとか。」
「期待などするもんですか。ただ夢ではあんなに淡々と私を口説きにかかってたんですけどね。」
「ほほぉ、夢に私が出てきたと。それは光栄ですな。」
「今日お会いするってのが頭にあったので、たまたま夢に出てきただけです。」
彼女はスコーンにたっぷりとベリージャムを乗せ、口へ運んだ。
「私の夢にもあなたがよく出てくるんですよ。」
彼は紅茶を一口飲むと、話を続けた。
「だけどあまり嬉しくないんです。たいてい私が惨めな思いをする内容なので。」
「それは私に苛められたいという、あなたの欲求ですか。」
彼女はにやりを笑った。
「それはないですよ。むしろ苛めてさしあげたいです。」
「これはこれは、とんでもない痴れ者ですね。私を誰だと思ってらっしゃるのですか。」
「おっと失礼、こんなこと誰かに聞かれたら首を刎ねられますかな。」
二人はやれやれといった表情で、しばらく紅茶やスコーンを楽しんだ。

「私の夢にあなたが出てくるときは、あなたが私のことを想ってくれているんだなんて、勝手に喜んでるんです。」
青年はティーカップに視線を落したまま、独り言のようにつぶやいた。
「それで、さっきの私が口説いた云々の夢はどんな内容でしたか?」
彼はクリームを乗せたスコーンをかじりながら、彼女に訊ねた。
「えっとですね、場所はよくわからないんですが、あなたが私の事を一生懸命に口説いてるんです。」
彼女は目を見開いて彼に説明をはじめた。
「それで、私がちょっといじわるして、無理難題をあなたに申しつけたんです。これができたらあなたの望みを叶えてさしあげますってね。その内容はちょっと忘れてしまいましたけど。」
「ほほぉ、それで私はその難題をやりとげることができたんですか?」
「どうだったかなぁ。途中で目が覚めてしまったので、結果はわかりません。」
「なるほど。確か東洋のお伽話にそんな内容のものがありましたね。」
彼は紅茶を飲み干すと、空のカップを眺めた。
「どんな内容ですの?」
彼女はポットを掲げると、彼のカップに温かい一杯を注いだ。
「『かぐや姫』という、竹という木の中から生まれた女の子の成長を描いた物語です。美しくなったかぐや姫のことを男たちが口説くんですが、姫は無理難題を言って男たちを撥ね退けるんです。」
「ふふ、まるで私のようではありませんか。それで、その姫はどうなるんですか。」
「実は彼女は月の世界から来た姫で、大きくなったある日、月に帰ってしまうのです。」
「それはそれは、なんとも不思議なお話ですね。」
今度は彼が彼女のカップに紅茶を注いだ。
「夢の中で私があなたに申しつけた無理難題、思い出しました。」
彼女はカップに口をつけたまま、上目づかいで彼の様子を窺った。
「聞きたいですか?」
彼女は言った。
「聞かせたいんでしょう?」
彼も言った。彼女はカップを置くと、一息ついて彼の目を見た。

「ならば、そなたに申しつける。聖なる夜、天に瞬く星々のいずれかより、そなたの言葉を届けよ。成し遂げたならば、そなたの望みを叶えてしんぜよう。」

彼らはしばらく互いの目を見つめたままだった。やがて、彼女が口を開いた。
「どうです、あなたにできそうですか?」
彼はふぅと息をひとつ吐くと、彼女に言った。
「星から言葉を届ける、ということはつまり、星になれ、命を絶てと言うことですかな。」
「どうなんでしょう。夢の中の話なので真意はわかりません。ただ、命を絶てとは間違っても言いませんのでご心配なく。」
彼女は柔らかく微笑んだ。
「ふむ。しかし生きながらにして星の世界に踏み込むには、幾千の月日を要するでしょう。今の私たちが生きている間には、到底叶えられないことです。どうでしょう。幾度か生まれ変わった後、その機会が得られた際に、あなたの生まれ変わりに言葉を届けるというのは。」
「生まれ変わりですか。それには私たちの生まれ変わりが出会っていることが必要ですね。まあいいでしょう、きっと今日の事は覚えていないでしょうけど、そんな素敵な未来が来ることを願っています。」
「私も、今日のこのことを覚えているわけもない、未来の誰かに願いを託すとしましょう。」


外はいつの間にか夕日に包まれていた。まだそんなに遅い時間ではないが、空気は刻一刻と冷たくなってくる。
「今日はごちそうさまでした。私用で別邸にお呼びいただけるとは思ってもみませんでした。」
「いえいえこちらこそ。またお誘いしますね。」
「あ、そういえばさっきの話ですが。」
「さっきの…って、夢のお話ですか?」
「はい。もし未来の私があの無理難題を成し遂げたら、私の望みを叶えてくれますか?」
彼女はちょっと首をかしげながら言った。
「どうしましょう。それはその時、私の生まれ変わりの方が判断するんじゃないかしら。」
「なるほど、それもそうですね。ではこれにて。」
黒装束の青年は、別邸の門を抜け、港方面へ歩いて行った。彼女はその姿を見送ると、くるりと背を向け、建物へと戻って行く。その頭上には、早くも明るい星が姿を現しはじめていた。


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[ 2009/12/22 23:58 ] Geschenk | TrackBack(0) | Comment(0)
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