登檣礼

登檣礼をすべての人に捧ぐ・・・

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誰かのための108の断片 043

長い長い冬が終わり、春を通り越して夏を迎えたような季節の、とある大雨の日曜日。






朝。港を行き交う人はほとんど無く、市場に続く石畳も、ただ雨を受けるのみであった。
一人の青年が教会から姿を現した。黒いジレに薄赤のマントを纏い、羽付きの黒いトリコルヌを頭に乗せている。彼はしばらく空を見上げて、それからフラフラと市場のほうへ歩いていった。

欧州では近年、南蛮交易が盛んになり、ジパングからの交易品や小物が頻繁に入荷するようになってきた。この街の道具屋も例外ではなく、漆器や和紙などの見慣れぬ美術品が並ぶようになっている。先ほどの青年もこれらの物珍しさに足を止め、漆器の艶やかな表情に見入っていた。
「美しいですよね、その入れ物」
青年の横で声がした。漆黒のドレスに白い外套を纏った女性、彼のよく知った顔だ。彼女の顔を見て一つ息をつくと、彼は口元に笑みを浮かべた。
「教会に行ったら、市場のほうへ出かけたと言われてしまいました」
「しばらく教会で待ってたんですけどね」
「遅刻…ですね、申し訳ない」
「いえいえ、私のほうこそ待機場所を離れて申し訳ないです。お祈りはもう済まされたのですか」
「離宮に聖堂がありますからね。あなたももうお済みで?」
「私は教会で祈りを捧げるほど敬虔ではありませんよ」
「あらら、ドイツ騎士団の末裔とは思えないお言葉ですこと」
「私は神より人に仕える身です。それより先ほどから気になっていたのですが、その傘、随分と見慣れない形をしてますね」
「これですか、これはジパングの傘を真似て作られたそうです」
通常より骨の数が多く、日傘より二周りほど大きい傘を、くるくると回してみせた。
「…なんとも美しいではありませんか」
青年は彼女にしばし見とれていた。
「この傘がお気に召しましたか、それともこの髪型ですかね」
彼女は左右で束ねられた髪をなでてみせた。
「傘も髪型も私の好みですよ。ただそれを差し引いても、今日のあなたは一段と美しい」
「えへへ、褒めてもなにも出ませんよ」
彼女は照れた様子で、彼に背を向け歩き出した。彼もその後をゆっくりと追っていった。


昼。雨はまだ降り続いている。
2人は兵舎の近くにある上級酒場にいた。高官や将校の利用者がほとんどだというのに、なぜか日曜も店を開いている、ちょっと変わった店だ。おまけにまだ日が高く雨ということもあって、他の客の姿は見られない。彼女の身分を知ってか知らずか、2人は奥の大机に通されている。テーブルには北海名産の酒とカリブ名産の小料理、アフリカのカブ料理が並んでいた。
「そういえば、今日は黒くないんですね」
いつもの黒装束とは違った彼の姿に、彼女は新鮮さを感じていた。
「たまには違うものを着てみようと思いましてね。いつも黒だと面白くないでしょう」
「そうですね。いいと思いますよ、お似合いです」
「お褒めいただき光栄です」
彼は胸に手を当てて軽くお辞儀をした。
「ところで今回はどのような御用向きで?」
「特に用があったわけではありません。ただあなたに会いに来たんです」
「遺跡の視察とやらへ行ってきたと聞きましたが」
「ええ、でもそれは任務ではありませんよ、あくまで私の個人的趣味の範囲です」
「そうでしたか。で、感想は?」
「遺跡のですか? それともあなたの?」
「遺跡のです、と言いたいところですが、両方聞いてみたいですね」
彼女はややうつむいてポツリとつぶやいた。
「ではあなたの感想を申し上げましょうか」
彼は琥珀色のグラスを目の前まで掲げ、彼女の顔と重ね合わせた。
「似合いませんよ、それ」
ニヤリとして、彼女はまたポツリとつぶやいた。彼は気にすることなく、話をはじめた。
「まずは初めてあなたにお会いしたときのことからお話ししましょうか」
「それはまた随分と長くなりそうですね」
「そうでもありませんよ、私の片思いを語るんだったら5分もかかりません」
「5分ですか…、それはちょっと短すぎでは?」
「基本的に5年前から変化してませんからね。もちろん起伏はありました。護衛対象か別の対象か、という違いもありましたが…」
「別の対象とは?」
「…そこはお察しください」
「でも、言わないとわかりませんよね」
「…そうですよね」
表現を恥じて言えないのか、何か想うところがあって言わないのか、彼女にとって彼の心は推し測れない存在であった。
「…そういえば王立の研究所でですね――」
そしていつものように彼女の持ち出してくれる話題によって、そのあいまいな会話はなし崩し的に終了するのであった。


昼下がり、小雨に変わった。
市場から延びる石畳の坂を下り、港へと向かう2人の姿があった。
「ほんと不思議なくらい、あなたに会う日はいつも雨ですね」
「雨はお嫌いですか」
「嫌いではありませんよ。ただ別段好きということもありません」
「では、雨が降ったら私のことを思い出してください。きっと雨が好きになります」
「それはまた随分と強引な考え方ですね」
「ダメですか?」
「ダメではないと思います。雨という比較的遭遇率の高い事象とあなたを結びつけることによって、あなたのことを想う機会を増やそうとする。合理的でよろしいんじゃないかしら」
「そこまで深くは考えてませんでしたよ。でも思い出してもらえれば幸いです」
「ええ、努力してみます。というよりも、言われる前からもうあなたと雨は結びついていたりします」
彼は彼女の顔をじっと見る。彼女はちらっと目線を合わせたが、すぐにうつむいてしまった。
「また秋に参ります。それまで雨の数でも数えて待っていてください」
「雨の降るたびにお手紙書きましょうか」
「うれしいですね。そしたら私は雨乞いを続けるとしましょう」
「ほどほどにお願いしますね、雨ばかりだと農夫が困ります」

いつのまにか雨は止み、桟橋に水夫が集まっていた。遅れた出航時間を取り戻すかのように、街の時間が加速していくのであった。
「そういえばあなたの護衛の任、明日の朝まであるんですよ」



2/3 fin

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[ 2010/05/25 12:38 ] Geschenk | TrackBack(0) | Comment(2)
「えへへ、褒めてもなにも出ませんよ」

ってところで萌えました。

いいもんですな。
[ 2010/05/26 14:53 ] [ 編集 ]
モデルがいるんですが、この話と同じくデレてくれないんです・x・
でもかわいいでしょ♪
もっとデレがあったほうがいいのかなぁ。
[ 2010/05/28 01:13 ] [ 編集 ]
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