登檣礼

登檣礼をすべての人に捧ぐ・・・

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バルト海にて -黒船・序章- (上)

セビリアの閑静な商館地区。
白壁の間に延びる青々とした空から、傾きつつも白く熱い太陽が見下ろしている。
3番商館は珍しく人で賑わっていた。カウンター内には書類の山を相手にしかめっ面をしている秘書、彼と対するところには頬に傷のある軍人風の男。その近くのテーブルに若々しい駆け出しの商人、その向かいにも同じく駆け出しの冒険者と思わしき若者。その2人を両手に見る位置に小柄な褐色の娘が座っている。さらに少し離れた(といっても剣を翳せば届くくらいの)ところには赤銅髪の男が柱に寄りかかって立っていた。

先ほど褐色の娘が長旅から帰ったばかりで、彼女の土産話を聞いていたところだった。
「さて、ひとまず私の話はおしまい。私も君たちの話が聞きたいんだ。何せ久しぶりだからね」

彼女は持参した琥珀色の瓶、ではなくもう一方の透明な角瓶の口を切り、皆のグラスに注いで回った。もちろんしかめっ面の秘書にも。
「いえ、私はまだ仕事が・・・」
「ちょっと一休みしようよ。根をつめすぎるとミスの元だよ」
ゴブレットを引っ込めようとする秘書の手を制し、透明に輝く液体を半分くらい注いだ。
「ほぉ、これは・・・ジンか? いや香りが違うな」
赤髪の男が言った。
「おそらく、ウォッカでしょう。北欧のフレーバードの一種かと」
若い冒険者が続けた。
「おお、するどいね。そのとおりフレーバード・ウォッカだよ。ちょっと前にリガへ行ったときにね、たまたま持ってたワインと交換したんだ。読めるかな?」
娘が瑠璃色の目を大きく見開き、瓶を彼の前に突き出してみせた。
「えーと・・・ズ・・・ジョ・・・? ・・・ウォドゥカ・・・?」
彼は目を凝らしたり見開いたりしながら、その見慣れない言語を懸命に読もうとしている。娘はそんな姿を見ながらケタケタと転がるような笑い声をあげた。

徐に、軍人風の男が口を開いた。
「フレーバード・ウォッカか。そういえば、バルト海でちょっとおもしろい経験をしてきたんだ。その話でもしようか」
「うん! 聞きたい聞きたい!」
娘は首だけ男のほうへ向けると、パッと華やいだ声で話を促した。







あれは俺がハンザ同盟への外交使節団として、プロシア近海へ出向いたときのことだ。ボヘミアの政商が統括する船団の船に乗せてもらって、どこの国の同盟港かもわからないような小さな港町を転々としていたときの話、といっても数ヶ月前のことなんだが。


ある日の夕刻、その日の宿となる1つの港町に入港し、桟橋をふらふらと散策していたときのことだ。
「Entschuldigung.」
突然後ろから聞きなれない声がした。振り返ると、漆黒のジュストコールに身を包んだ男がこちらを見ている。
「Wie komme ich zum Rathaus?」
男が言葉を続けた。非常に訛りが少ない発音だったためドイツ語だということは理解できたが、内容まではわからない。
「すまないが、イベリアの言葉はわかるかな」
俺は使い慣れたスペイン語で返してみた。だめなら英語でも試してみるか、と考えながら。
「おや、イスパニアのお方でしたか。失礼しました」
男は流暢なスペイン語で返してきた。ほぉ、と俺が感心する間もなく、男は続けた。
「あのベーメンの船に乗っておられたので、てっきりドイツ語で通用するかと思いまして」
男が指差す先には、俺が乗ってきたボヘミア商船隊のキャラベルがあった。
「ちょっとハンザの連中と仕事があってね、乗せてもらってるんだ。ところで、何か御用だったかな?」
「ええ、実は役場へ行きたいのですが場所がわからなくて。どちらかご存知ないでしょうか」
「役場か、そこの城門をくぐって噴水のところを左に行くと、鷲の旗が掲げられた建物があるから。そこが役場だよ」
この町の役場なら、ついさっきまで俺が雑務をしていた場所だ。
「そうですか、ご親切にどうも。では急ぎますので私はこれで」
男はかぶっていた黒いトリコルヌを取ると、軽くお辞儀をしてみせた。


宿について早々、主人に地元の酒を所望したのだが、あいにくうちには酒は置いてねえ、向かいに酒場があるからそこで一杯やってくんな、と言われてしまった。

酒場はそれなりに賑わっており、カウンターの隅まで席は埋まっていた。
「よう旦那、こっちに来て一杯やりましょうや!」
商船隊の船員が1つのテーブルに数名固まっていた。地元の民にも顔見知りがいるらしく、なにやら楽しげに話をしている。俺が近づくと椅子が1つ空けられ、その椅子を中心にするように陣形が整えられた。
「旦那、ここはベーメンの親分のツケで飲めやすからね、じゃんじゃんいっちゃってくだせえ!」
そう言って船員の一人がグラスを掲げた。ベーメンの親分、というのはおそらくボヘミアの政商のことだろう。
船の維持費から船員の衣食住に至るまで、すべて面倒をみていると聞く。
「せっかくだが明日も早くから仕事があるんでね。少しだけにさせてもらうよ」
俺は先ほど空けられた椅子に掛け、皆のコップを見回した。地中海で見慣れた琥珀色や真紅ではなく、透明なものが注がれている。
「ふむ、ここで一番良く飲まれているやつは何かな」
「そりゃ何といってもこいつでさぁ。マスターがどっかから仕入れてくる蒸留酒の一種らしいんですが、名前も出所も知ってるもんはいねぇです。あっしらは『スピリッツ』って呼んでますがね」
船員の一人が透明な液体の入ったボトルを差し出し、俺のコップに並々と注いでくれた。香りを確かめようと顔を近づけた瞬間わかったね。これは相当きつい酒だってことが。
実際のところ相当きつかった。口に入れた瞬間、一瞬で喉の奥まで凍りついたかと思うと次の瞬間は灼熱の地獄になっていた。香りも味も楽しむどころではなかった。
船員たちはその様子を見ながら、どうです?ちょっと強いですかね?などと言い、自分たちは同じものを平気な顔で流し込んでいた。


その後、どれだけ飲んだのか、何を話したのかまったく覚えていない。



気づいたときには宿の自室で横になっていた。窓から射す光はもう朝日ではないということがわかった。
「・・・しまったな、やらかしたか」
俺はゆっくり起き上がると、自分の体を見回した。昨夜と同じコート、腰のダガーに懐の小銭入れ。ブーツは床にきちんと置かれている。頭痛も無く、体に変調はない。どうやら夕べは無事に帰ってこれたようだ。ひとつ大きなあくびをして、階段を下った。

「おはよう旦那。もうすぐ昼だぜ」
宿屋の主人は入り口脇の椅子に腰掛け、何か本を読んでいた。俺が降りていくと目だけをこちらに向け、注意深く観察をしているようだった。
「すまない、寝過ごしたようだ」
階段を降りきったところで立ち止まり、頭をかいた。
「まあ気にすんなって。アレを初めて飲まされりゃ誰だってそうなるわな」
主人は再び手元の本に視線を落とし、話を続けた。
「商船隊の航海士から言伝を預かってる。『今日行く港の報告書については昨日と同じ程度には作っておくから、心配せずにそこで休んでろ。明日の夕刻までには戻る』だとさ。優秀な部下がいて良かったな」
再び目線をこちらに向け、にやりと笑った。俺も苦笑いするしかなかった。
「明日の夕刻か・・・報告書の整理でもするかな。すまないがそれまで部屋を貸してもらえないだろうか」
「かまわんよ。だがせっかくだ、もう少しこの町の港やら市場を見て回ったらどうだい。南の岩山のてっぺんにある教会へ行ってみるのも悪くないね。あそこから見下ろす海は絶景だよ」
主人の言うとおり、ここは町の散策に出るのも悪くないだろう。仕事をサボっているような罪悪感はあるものの、じっとしているのももったいない。俺は主人に頭を下げ、教会へ向かうことにした。



宿を出て小一時間は経っただろうか。教会へ向かう坂道の中程まで登ってきたときだった。ふと風に乗って砲声が聞こえた気がした。近くに練兵場でもあるのだろうか。いやこんな岩山に練兵場は作るまい。教会が近くにあれば尚更だ。気のせいだろう、そう思いまた坂道を登り始めた。また砲声が聞こえた気がした。俺の知っている限りでは、軽くて速度の出る大砲、ラピッド砲と似た音だ。もしやと思い、木々の間から港の見える場所を探し、目を凝らしてみた。特に変わった様子は無い。
しかし、俺の目ははっきりと別のものを捉えていた。昨日まで乗船し、今朝俺を置いて出航したはずのキャラベルが、帆を全開にしてこちらに向かってきている。そしてその後方、距離はあるが数隻の船団が見えた。船の揺れによってちらりと見える後舷にはためく黒い旗と、その中央に染め抜かれた赤い紋章。海賊の類と見て間違いないだろう。

近くに軍用船が展開している形跡は無い。もし俺たちのキャラベルが拿捕されては洒落にならない。いやそれだけではない。迎撃が遅れれば最悪の場合強行上陸される恐れもある。一刻も早く港へ向かわなければ。宿にサーベルを置いてきたことを若干後悔しながら、俺は今来た道を全力で駆け下りた。




-つづく-



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[ 2012/07/13 00:17 ] 書き物 | TrackBack(0) | Comment(2)
キタキタ^^

ボヘミア云々の下りは単純に中の人がヨーロッパユニバーサリスで神聖ローマ帝国を復活させようとしてたからそういう設定にしたんですわ。。

さておき、続編期待。
[ 2012/07/13 10:54 ] [ 編集 ]
ボヘミアって海に面してないからどうやって織り込もうか悩みました。
SS書くといろいろ資料調べたりするので面白いですな。

さて続編書きましたよっと(・x・)
[ 2012/07/16 17:35 ] [ 編集 ]
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