登檣礼

登檣礼をすべての人に捧ぐ・・・

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バルト海にて -黒船・序章- (下)

セビリアの街に夜が訪れようとしていた。酒場や食堂には明かりが灯り始め、港や広場に集っていた人々を吸い寄せていく。商館の立ち並ぶ一角にも、疎らではあるが窓から明かりがこぼれていた。

今日は珍しく3番商管にも人が集まっており、燭台やランプは今宵何日ぶりかの輝きを放っている。
テーブルの周りには何人かの商会員。その傍らに秘書が立ち、話を始めた。






「皆さんが口々に言う黒船というのは、おそらくエイリーク造船所で造られた船のことを指していると思われます」
「エイリーク造船所・・・聞いたこと無いな。この辺の造船所なのか?」
軍人風の男が顎に手を当て、秘書に尋ねる。
「ライン川河口か北海沿岸あたりにあったと聞いています。そこでかつて作られていた船が漆黒の船体を持っていたようです。ライン川上流にシュヴァルツヴァルトと呼ばれる地域がありまして、昔はそこにだけ自生する珍しいオークがあったそうです。それを主材料として造船していたようですよ」
「それっておとぎ話に出てくるブラックオークのこと?実際にあったの?」
褐色の娘が瑠璃色の眼を大きく見開いた。
「ええ。通常のオークと比べて軽量ではあるんですが非常に硬く、加工には向いていないとされていました。しかしオッフェンブルクのエイリークという船大工はその木を加工する技術を身に付け、彼の造船所ではその技術を代々受け継いでいたそうです」

秘書は商管奥の事務机に並んでいる本の中から一冊を引き抜き、テーブルへと持ってきた。薄めの本ではあるが、厳つい黒い革張りの表紙に銅の紋章が埋め込まれている。所々緑青の吹いているその紋章はガレー船をかたどっているようだった。
「見たことの無い紋章ですね」
若い冒険者が、紋章を手でなぞりながら言った。
「ノルドの古い文献で似たような紋章を見たことがあるな。たぶんヴァイキングから派生した何かだと思うが。で、この本がどうかしたのか?」
赤銅髪の男が秘書に尋ねた。
「これは、その俗に言う黒船の権利書みたいなものです」
秘書の言葉に、皆驚きの表情を見せた。全員の視線が秘書の顔とその本を行ったりきたりしている。秘書はその本をパラパラとめくり、あるページを広げて見せた。



バーボンハウス商会長 殿

貴殿率いる商会のイベリアにおける数多の功績および献身に感謝の意を表し
堅牢かつ敏捷なる巡航船“カルルスェヴニ号”を寄贈いたします

オッフェンブルクの名匠エイリークの名を冠する造船所が手掛けた比類なき名船です
枢機卿より勅命を賜りました西方海域探索の折には、ぜひ本船にて戦列に加わっていただきたく存じます

海神の加護があらんことを

カスティーリャ商工会 会頭



「年月日の記載がありませんが、おそらく今から100年ほど前にこの寄贈のやりとりがあったと思われます。この西方海域探索というのがどの枢機卿の勅命だったのかはわかりませんが・・・」
枢機卿の文字を秘書の指がコツコツと叩いた。
「カスティーリャ商工会というのはどこの組織でしょうか。文字通りカスティーリャ王国の商工会なんでしょうか」
「残念ながらその記録は残っておりません。前任の本館秘書の引継ぎ資料によりますと、以前商人ギルドや管理局にも問い合わせたものの、交易関連の登録資料にカスティーリャ商工会の名が記載されたものは見つからなかったそうです」
「謎の組織か秘密結社、といったところか。当時の会長と個人的に親交があった、と考えるのが妥当かもな」
一同はしばらく、その本をパラパラとめくったり、表紙を眺めたりしていた。やがて赤銅髪の男が思い出したように口を開いた。
「で、このカルルスェヴニ号ってのは今どこにあるんだ?」
「それについては記録が残っていますよ。カルルスェヴニ号は・・・アゾレス沖で眠っています」
秘書はテーブルの上に置かれた本の後ろのほうのページを開いた。白紙のページの隅に、手書きで何か書かれている。

--ACORES 1427 BourbonHouse Sevilla--

「これは・・・!!」
軍人風の男が声を上げた。
「うむ、前に見たことがある。確かマスケット銃に同じ刻印があったな。アゾレスで引き上げられたと聞いたがもしや・・・」
赤銅髪の男も何か思い出したようだ。
「バーボンハウスの艦艇が西方海域の探索に出たという記録はセビリアの港湾局に残っています。しかし帰港の記録は残ってないんです」
「セビリアには戻っていないということか・・・。だが・・・それならどこか他の港へ寄港した可能性はないのか?」
「その可能性はまったく無いとは言い切れません。この時の西方探索勅命艦隊はおよそ30隻が隊列に加わったとされていますが、そのうち勅命艦隊として帰港した艦船はほとんどありません。隊列に加わっていた複数の商会や周辺国の自警団、私掠海賊、探検隊など、船も船員も多数戻ってきてはいます。しかし勅命艦隊の帰港として記録されているものは2隻しかないんです。先ほど申し上げたカルルスェヴニ号が沈んでいるという記録ですが、公式文書ではなく、今申し上げた帰港した多数の艦船の航海日誌、あるいは船員の日記や証言を整理して考察した結果、そのような結論に至ったというわけです」
秘書が話し終わると、一同はしばらく沈黙した。


「・・・つまり、勅命艦隊はどこかで解散したと考えていいんですかね」
若い商人が口を開いた。
「そうだな。もしくは解散さぜるを得なかった、とも考えられる。そして勅命艦隊に加わっていたことを隠して帰港する必要もあったということだ」
軍人風の男も続いて話し始め、チラッと秘書の顔を見やった。
「ラーベナルト、何か言いたそうだな、遠慮なく言ったらどうだ」
「いえ、管理局の機密事項が含まれますのでこれ以上は・・・」
「ほほう、俺達に隠している機密事項があるというわけか。そいつを聞かせてもらおうじゃないか」
軍人風の男はニヤリと笑った。秘書はしまったという表情を浮かべ、頭をかいた。
「まあそんなにいじめてやるな。私がその機密事項を一言で暴いてやろう」
赤銅髪の男が仲に入り、話を続けた。
「お前なら知ってるだろう、アゾレスは誰がいつ発見した?」
若い冒険者に向かって問いかけた。
「えーと、エンリケ王子の派遣隊が発見したんでしたっけ。確か1430年代前半だったかと思います」
「ふむ。誰もが知っているとおりの答えだ。・・・さて、何か気づかないか?」
「えっ」
男は本をパラパラとめくり、先ほどの手書きの文字を指差した。一同再びその文字に見入る。
「アゾレス・・・1427・・・!?」
「そう、つまりはそういうことだ。そうだなラーベナルト」
赤銅髪の男は秘書に向かってニヤリと笑った。
「はぁ・・・まったく大した航海者が揃った商会ですね。いいでしょう、お教えしますがこれは機密事項ですので、くれぐれも口外しないでくださいね」
前置きをしてから秘書は語りだした。

「実はエンリケがアゾレスを発見して戻ってくる間に本国では3枚の海図が書かれていて、そこにはすでにアゾレスのいくつかの島が描かれているんです。作成者の身元は判明していて、3名のうち2名は勅命艦隊として出航した者、もう1名はリスボンの地図職人です」
「そしてその2名だけが勅命艦隊として帰港しているってわけだな」
「お察しのとおりです。1隻はイスパニアの探検家、もう1隻はポルトガル自警団の斥候の船です。地図職人の海図と斥候の海図が似ていることから、3枚目の海図はこの斥候が地図職人に依頼して作らせたものだと推測できます」
「なるほど・・・その2隻はアゾレス発見の一報を持ち帰るために先に帰還したんだろうな。その時は勅命艦隊の名を隠すことなく帰港できた。しかし本隊の帰港時にはそれができない何らかの事情が発生した、と」
「ですね。その何らかの事情というのが気になりますが。まさかエンリケ隊と何か関わっているんでしょうか」
「そういった記録は残っていません。エンリケ隊の公式記録にも勅命艦隊との関係は記載されていませんが、時期的にアゾレス近海で接触している可能性はありますね」
「うーむ、謎が多すぎて推測の域を出ないな」
それからまた一同の沈黙が続いた。



その後も夜があけるまで、この勅命艦隊についての話題で盛り上がっていた。やがて1人、また1人と岐路に着き、商館内には秘書だけが残された。秘書は燭台やランプの煤を拭いて回り、机の上に広げたままの本を奥の事務机にそっと戻した。そして視線を上げると、壁にかけてある1枚の絵を見つめた。
「皆さん、意外とこの絵ご覧になっていないのかも・・・」

商館奥の事務机、その目の前の壁にはいつの頃からか、黒船の絵が飾られているのであった。


(fin)

kurohune01.jpg


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ちょっと後半がうまくまとまらなかったですが、3部作はこれで一旦おしまいということで。
まだまだ続きが書けるお話なので、もう少し練ってそのうち書くとしますか。


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[ 2012/10/01 01:31 ] 書き物 | TrackBack(0) | Comment(0)
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