登檣礼

登檣礼をすべての人に捧ぐ・・・

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荘園の亡霊 上

昼下がり。街が夜に向けて忙しなく動き出すにはまだ早い時分。

「ただいま閉店中」の看板がかけられた酒場には、数名の航海者たちが溜まっていて、交易商と称する一人の男の話に耳を傾けているところだった。



交易商が言うにはこうだ。

郊外の丘陵地には小規模な荘園があり、その中央には昔領主が住んでいた大きな屋敷があるという。領主の一族が絶え、教会の直轄地になってから数十年間は誰も住んでおらず、庭師も僧侶も屋敷に立ち入ることはないはずだった。にもかかわらず、邸内は荒れることなく、今なお誰かが住んでいるかのごとく様相を見せている。
最近になってその屋敷の周辺で、不思議な影を見たという噂が立ちはじめるようになった。その影は庭から屋敷を眺めるようにして佇み、誰かが近づくとフッと姿を消してしまうらしい。目撃情報は複数に及んでいることから、ただの見間違いでは無さそうだった。


交易商と、図体のわりに臆病なカバーリョを酒場に残して、作家と褐色の少女と軍人風の男は、その荘園へと向かった。まだ日が暮れるまでには時間がある。明るいうちに屋敷の様子だけでも確認をしておきたかった。


街で馬車を雇い、城外の農道を小一時間揺られ、小さな林を抜けた途端、目の前に広々とした農園が姿を現した。
「旦那、着きやしたぜ。これが教会の所有する農園でさぁ」
初老の御者が幌の中に首を突っ込んできて言った。3人はまだ動いている馬車の中をよたよたと進み、前の幌を開け広げ、外の様子を覗った。
「お~、小麦畑だ。あっちのほうにはぶどう棚もあるね~。醸造所もあるのかな?」
少女は瑠璃色の眼を見開いてはしゃでいた。
「昔は礼拝用のぶどう酒なんか作ってたって話ですがね、領主様がいなくなってからはもっぱら教会に納める小麦ばっかでさぁ」
「ほぉ、この農場に詳しいのか。その領主というのは?この辺りは昔から教会の直轄地なんだと思っていたが」
軍人風の男が尋ねた。
「いえ、教会に召し上げられる前はある地方貴族の領地でしてね。もう50年も昔の話らしいんですが、ちょっとした問題がありやして、それで教会の直轄地になったらしいんでさぁ。でもこの辺の眺めはほとんど変わってませんがねぇ。あ、あっしも子供ん頃に親に連れられて何回かこの荘園に遊びに来たことがあるんでさぁ。前はこの道の南側にもう少しぶどう畑が広がってましたがね。んであの建物、今は農耕具の倉庫になってやすが、昔は醸造所だったんでさぁ。今は酒造りするほどぶどうが収穫できねえもんで、街まで持っていってそのまま売られちまいますが。あぁ旦那、見えてきやしたぜ、あれが昔領主様がお住まいになられてた屋敷でさぁ」

機関銃の如く言葉を発する御者に耳を貸しているうちに、目的の屋敷にたどり着いた。
「不思議なもんで、今じゃ誰も手入れしてないってのに、まったく朽ちる様子がねえ。庭も手入れされてるみたいに綺麗なままでさぁ」
「よし、そこで停めてくれ」
感心している御者の言葉をさえぎるように、軍人風の男は停車を命じた。馬車はゆっくりと屋敷の門まで進み、やがてピタリと動きを止めた。
3人は荷台から降りると、改めて目の前の屋敷を見上げた。人の気配はまったくないが、廃墟の雰囲気もまったく感じさせない。門内に覗く小さな庭も雑草で荒れている様子は無く、色とりどりの花が飾り立てている。聞いていた以上に手入れされた屋敷の姿に、一同驚きを隠せなかった。
「旦那、本当にいいんですかい?勝手に入ったら罰が当たりませんかね。最近じゃ幽霊が出るなんて噂もありやすぜ」
「大丈夫だ。教会には了承も得ている。幽霊だか獣だかわからんが、万一の場合は討伐しても構わぬと言われているからな。それに、こいつが落ち着いているってことは、そんなに悪いモノはいないって証拠だ」
男は馬の首をポンポンと叩いて見せた。
「それならいいんですがね。・・・んじゃあっしは一旦荷運びに戻らせていただきやす。日が暮れないうちに戻って来ますんで、さっきのぶどう棚のあたりでお待ちになっててくだせえ」

御者は鞭を入れ、荘園の作業所へと馬車を走らせて行った。



門をくぐり、玄関前までやってきた。ここまでの石畳といい、扉の装飾の光沢といい、やはり廃墟と呼ぶには相応しくない。
「誰も住んでいないということだが、まずは挨拶を」
そう言って軍人風の男は扉の金具を打ちつけた。

コーンコーンコーン

木の叩かれる音ではなく、金属か陶器を奏でるような音が、扉の向こうの屋敷に広がっていった。
「珍しい細工だね。音色も響かせ方も。ドイツの工房でこんな感じの仕掛けを作ってるって聞いたことあるけど」
少女が扉の金具をまじまじと見つめている。

・・・1分、2分と待ったが、中から人の出てくる気配は無い。
「・・・まぁ、廃墟ですから、ね」
作家が口を開いた。
「そうだな。時間ももったいない。失礼して入らせてもらおう」
軍人風の男は懐に仕舞ってあった、先ほど荘園主から借りてきた鍵を取り出すと、鍵穴へと差し込もうとした。がその前に、
「・・・あ」

扉の細工を撫で回していた少女がふと、扉を引いてしまった。その力に抗うことなく、扉はゆっくりと口を開けた。
「えへへ・・・、開いてる・・・よ?」

玄関は鍵がかかっていなかった。城下ならともかく、郊外の屋敷にしては随分と無用心である。本来ならとっくに山賊の根城になっているところだが、ここは荘園内。鍵の開閉など問題ではなかったようだ。

3人はそのまま歩みを進めることにした。



つづく
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[ 2013/04/07 15:01 ] 書き物 | TrackBack(0) | Comment(1)
つづきはよ!
[ 2013/04/08 17:52 ] [ 編集 ]
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