登檣礼

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荘園の亡霊 中

当たり前だが、屋敷の中は静まり返っている。至るところに飾り窓や明り取りの窓があるため、昼間は燭台やランプがなくても不自由なく暮らせる程度に光が溢れていた。
「ずいぶん明るいですね。幽霊話なんて縁の無いくらいに」
作家がメインホールを見上げた。こじんまりとした螺旋階段と、その中央から降り注ぐ光の柱。壁面にはさほど多くないものの、ステンドグラスやフレスコ画が飾られている。聖堂を思わせるような造りに、一同しばらく見とれていた。


バタンッ




戸の閉まる音がした。表の扉ではない。廊下の奥からだ。
軍人風の男がスッとサーベルに手をかけ身構えると、音の聞こえたほうを見やった。少女と作家は彼の背に隠れるようにして息を潜ませている。
足音は聞こえない。絨毯の引かれていない木の廊下だが、靴音も軋む音も聞こえない。男はサーベルから手を離すと、廊下をゆっくりと進みはじめた。1歩進むたびに重いブーツの音と軽い床の音が響く。その音を後ろに2つ連ねながら、廊下を進んでいった。

廊下の真ん中まで来ただろうか。3つほど部屋を通り過ぎたとき、ふと足が止まった。人の気配がする。この次の部屋だ。男は2人の顔を見た。2人は気づいていないようで、何事かと男の顔色を覗っていた。男は再び前を向くと、先ほどより慎重に歩みを進めた。前方右側の部屋。戸は閉まっているが、間違いなく誰かがいる。男はそう確信し、戸との距離を縮めていった。

「何か用かね?」

急に3人の後ろから声がした。驚いた少女と作家は悲鳴を上げて廊下の端に飛び退く。
その後ろ、正装をした老人が立っていた。足は2本見えているので、幽霊ということはなさそうだ。
男が黙っていると、老人は話しはじめた。
「先ほどは失礼した。あいにく手がふさがっていたもんで、玄関まで迎えに出ることができなんだ。お嬢様に御用だったかな?」
老人は例の部屋の前へと歩み寄り、戸をコンコンとノックした。中から返答は無かったが、構わず戸を開け3人を中へと招き入れる。

「お嬢様、お客様をお連れしました」
部屋の中は壁一面の本棚と、隙間無く並べられた古そうな本で覆いつくされている。中央には10人ほどが囲めるソファーとテーブル。窓際には大きな机があり、その傍らに一人の女性が立っていた。
「ありがとう。さあどうぞ、おかけになって」

3人は呆然としたまま立ち尽くしていた。今目の前で起こっていることが理解できていなかった。廃墟に来たつもりが、執事のような者に執務室へ案内され、お嬢様と呼ばれる女性に歓迎されているのだ。




ソファーに腰掛けた3人。テーブルの向こう側にも女性が座ったところで、作家がここへ来た経緯を説明し始めた。


「あら、そうするとここは幽霊屋敷か何か、ということになるかしら?」
「はぁ、まったくもって失礼なお話ではあるとは存じますが」
「うふふ、そうですわね。でも仕方ありませんわ。事実、ここに出入りしているのは執事と私くらいしかおりませんもの」
「しかし、荘園の人達も、荘園主もこちらには誰も住んでいないと申しておりました。皆さんご存じないのでしょうか」
「ああ、私たちも住んでるわけではありませんの。仕事が終われば執事と一緒に街まで戻りますわ」
「なるほど。住んでいないだけであって、使用していないわけではないということでしたか」
「そうですわ。私たちが出入りしていることを知らない方もおりますし、毎日出入りしているわけでもありませんので、たまたま見かけた方が幽霊と見間違えたのではございませんの?」
「そうかも知れませんね。いやはや何とも、お騒がせして申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらずに。それより、せっかくの小説の題材を無くしてしまって、こちらこそ申し訳ないわ。そうね、一つ物語になりそうなお話を知っておりますのよ。お聞きになります?」


+-+-+

あるところに商家の娘と、庭師の青年がいた。2人は愛し合っていたが、両家の猛反対によって結婚できずにいた。そんな中、青年は娘の前から姿を消してしまう。心配で居ても立ってもいられなくなった娘は彼を探す旅に出たが、途中不慮の事故に合いこの世を去ってしまう。死んでも死にきれない彼女は、彼が戻ってくるのではないかという期待から、幽霊になって度々屋敷に現れるという。

+-+-+


「なるほど、悲恋のお話ですね」
「ええ、どうかしら?」
「書くには十分な題材ですね。多少脚色すれば立派な読み物にできると思います」
「それはよかったわ。書きあがるのが楽しみですわね」


それから小一時間、荘園の話などを交わした後、3人は屋敷を出ることにした。

「あ、私ちょっとお話があるから先行ってて。10分くらいで行くから」
褐色の少女はそう言い残すと、女性と何事か話をはじめた。またどこかの知らない言語である。女性も受け答えしているところを見ると、通じているようだった。作家と男は怪訝に思いながらも、執事の案内の下、先ほどのメインホールへと戻ることにした。




つづく

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[ 2013/04/08 21:48 ] 書き物 | TrackBack(0) | Comment(0)
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